図書館で見つけたフクモモ関連文献より抜粋した文章です。よろしければ御覧下さい。

(ページの最後に同文献にあった挿絵をアップさせていただきました。)

 

 

リングテイル、ブーラミス、フクロモモンガ類は、オーストラリアとニューギニアに特有の森林にすむ。約4000万〜6000万年前に原始的なポッサム型の有袋類がオーストラリア大陸に入ってきたとき、この大陸は湿った霧深い多雨林で一面におおわれていた。第三世紀中ごろから末(500万〜3200万年前)に、これらの森林は衰退し、大陸の辺緑に生えていた今日のユーカリやアカシアの森林によって徐々に置き換えられたために、この初期の動物たちはクイーンズランド州北部やパプア・ニューギニアの高地に隠れ場所を求めなければならなくなった。これらの場所では、リングテイルが適応放散して、木の葉食や果実食の多様な動物からなる科をつくった。同時に、花蜜(かみつ)、乳液、昆虫が豊富なオーストラリアのユーカリやワットル(アカシア属)の新しい森林は、もっぱら花蜜食のブーラミス類や樹液、乳液を食べるフクロモモンガ属に多くの生態的地位(ニッチ)を与えた。この多様化はいくつかのいちじるしい収れん進化をもたらし、形態、機能、行動などの面で、他の大陸にすむ樹上生のキツネザル、ガラゴ、サルおよびリス類によく似た種を生んだ。

 リングテイル、ブーラミス、フクロモモンガ類は、手のようなはたらきをする足に加えて、後足に1本の大きな対向指をもち、森林の中を動きまわるのに適した一連の特徴をそなえた樹上生の有袋類である。現生するオーストラリア産ポッサム類の各科は、一見たがいに似ているが、外部形態、内部形態と生理、血清タンパク質の生化学において、カンガルー類とコアラの違いと同じくらいの違いがある。このフクロモモンガ、ブーラミスおよびリングテイルは、以前にはフクロギツネやクスクス類とともにクスクス科に入れられていたが、今では3つのべつべつの科に分けられている。滑空をしない種では、尾は物をつかむことができ、おそらく枝をつかんだり、巣材を運ぶのに使われる。裸出した尾の下面は摩擦を増すのに有効である。滑空する種(チビフクロモモンガを除く)では、尾に毛が密生し、まっすぐか、先細りとなる。尾は滑空の方向を制御するのに使われる。滑空する種は開けた森林で迅速な運動をすることに特殊化している。かれらは第三紀の中ごろから終わりにかけて、3つの科に分かれ、独立に進化したと思われる。

 現生の滑空する9種では、滑空は前あしから後あし(フクロモモンガでは前足首、チビフクロモモンガでは前足首からひざまで)にかけて張られた、薄くて毛の生えた膜(飛膜)を使って行われる。この飛膜は滑空時にはひろげられ、大きな四角形となる。この飛膜は使われないときにはぢめられ、体側にそって波状になっている。飛膜の表面積は腕とあしの骨を伸ばすことによって増大されてきた。1本の木のこずえから他の木の根もとや幹へ、ひと飛びで100m以上も滑空できる種もいる。飛膜が狭く(ひじから足首まで)、体重の重いフクロムササビはうまく制御できず、急降下する。しかし、滑空する小型種は熟練した曲芸師であり、木の間を縫うように優雅に滑空し、上方へ舞い上がって正確に木の上に着陸する。人間の目には静かな着陸と思われても、スローモーション撮影で見ると、実際は高速での衝突であることがわかる。動物は衝突のあと後方へ跳ね返り地上へ転げ落ちぬよう、幹にその長い爪をしっかり食い込ませる。前足の第四、第五指は長く、着陸時の衝撃を受けたのちに、しがみつきやすいようにひじょうに大きな爪をそなえている。

 これらのポッサム類はすべて夜行性で、とび出た大きな眼をもっている。大部分は声をたてず、人目を避けるので、めったに見られない。かれらの存在を知らせる唯一の音は、滑空する種が幹に着陸する際にたてる静かな「ポン」という音であり、フクロモモンガのほえたてるような警戒音、オオフクロモモンガの滑空中にだす「ギャーギャー」という声や「ゴロゴロ」という声である。リングテイルは一般に声をださないが、ときにやわらかな、さえずるような声をだす。大部分のポッサムは、攻撃されたり手でいじられると、大きな悲鳴や「ギャーギャーッ」という声をだす。

 食性に関しては、4つの大きなグループを区別できる。木の葉食性、樹液・乳液食性、虫食性、それに花蜜食性である。リングテイル類とフクロムササビは樹上生の木の葉食いとして、きわめて特殊化したグループ(リングテイル科)をなす。そして、繊維質にとむ食物中のセルロースを微生物に発酵させるための場所となる、大きな盲腸をもつことが特徴である。咬合面に三日月形のエナメル質の隆起がある(月歯食)、よく発達した大臼歯で食物片をこまかくすりつぶし、消化をたすける。これらのグループにおける食物摂取の速度はセルロースの発酵に要する時間によって弱められ、窒素およびエネルギーは、ゆっくりした動き、比較的少ない一腹産子数(1〜1.5)糞食(ふんしょく)(糞をふたたびのみ込むこと)、および中型から大型の体型(0.2〜2s)を選んだことによって節約される。オーストラリア東部のフクロムササビが好む食物はユーカリの葉である。この分布の広いグループのうち、種がもっとも多様なのは、クイーンズランド州北部とニューギニア高地の、雨滴がしたたり落ちる多雨林や雲霧林である。

 フクロモモンガ属の4種とフクロモモンガダマシは、もっぱら樹木の分泌物(樹液や乳液)を食べる。体の大きさは小型ないし中型(70600g)である。もっとも原始的な(そして滑空しない)メンバーであるフクロモモンガダマシは、湿った高地のユーカリの森林に限られ、ワットルやアカシアの乳液、昆虫、昆虫の滲出物を食べる。フクロモモンガダマシは樹皮に門歯で傷をつけ、乳液の分泌を促進させる。ワットルの乳液はフクロモモンガの主食でもあり、フクロモモンガはこれを得るために、開けた牧草地を横切って数百mも飛ぶことがある。この種は、タスマニアからオーストラリアの北西部、パプア・ニューギニア、および隣接の島々に生息するが、ユーカリ属の1種の樹皮を切開して、甘くて炭水化物にとんだ滲出液をなめる。フクロモモンガはこのような樹液を摂食する場所をひじょうにだいじにし、彼らは侵入者を追いかけたり、かみついたりして、精力的に防衛する。ユーカリの樹液を接触する習性は、オーストラリアの南東部および東部にすむオオフクロモモンガで極端に発達し、多くの樹種の樹皮に大きなV字形の切り込みをつける。食物のうちの少量を占めるだけではあるが、花粉と昆虫はこのグループのすべてのメンバーにとって重要なタンパク源である。これらの食物における高い炭窒素比(C/N)は、活動やなわばり防衛にまわせる余分のエネルギーを供給してくれるが、繁殖を可能にするほどではない。したがって、出産は昆虫の豊富な季節に限られる。

 スカンクに似てよく目立つフロクシマリス類はおもに昆虫食である。2種は中程度の大きさ(420470)で、クイーンズランド州の北部とニューギニアの熱帯低地多雨林にすむ社会性の昆虫、アリ、ハチ、シロアリ、および他の穿孔虫(キクイムシ)を食べることに特殊化している。きわめて長い第四指(マダガスカル島の原猿類のアイアイの指のように)、長い舌、前方へ突き出た大きな上下の門歯といった一連の適応が、木の割れ目深くから昆虫を引っぱり出すというわずらわしい作業を助ける。採食時にはシャワーのように木くずが飛び散る。

 フクロヤマネ属の4種とチビフクロモモンガは、花蜜にとんだ硬葉のオーストラリア・ヒース地帯、低木林、ユーカリの森林で多様化した第4のグループ(ブーラミス科)を構成する。チビフクロモモンガの、先端がブラシのようになった舌は、花の子房から蜜を吸うのに使われ、体が小さいこと(体重35g未満)と、これら5種のうちでもっとも機動性にとむことが、花蜜の採食効率を増大させる。食物のとぼしい季節には、孤立した、花の咲いている高木や低木に、多数の固体が集まっているのがみられることもある。多くの種はタンパク質を得るために、花から得られる多量の花粉を、そしてときには昆虫摂食すると思われる。体から小さいことと食物中の豊富な窒素が、異常に多いコドモ(一産4〜6頭)を産むことと急速に成長・発育することを可能にしているが、この点は肉食性有袋類(フクロネコ科)に似ている。

 稀少種でほとんど調べられていないブーラミスも外見上はこれと似ている。ブーラミスは1年のうち最高6カ月間、ニュー・サウス・ウェールズ州南東部スノーウィ山地のヒース地帯の積雪の下で活発に暮らす。よじ登りに適した(地上と樹上で採食する)この種は、種子、しょう果(ベリー)、いくつかの植物の葉、昆虫およびその他の無脊椎動物を食べる。顕著な扇形の小臼歯は、種子の皮をむいたり、砕くのに適している。余った種子は冬季の欠乏にそなえてたくわえられることもある。

 ブーラミス科のもう1つのメンバー、パプア・ニューギニアのニセフクロモモンガは、チビフクロモモンガのような尾をもつが、もっと大きく(体重5055g)、飛膜がない、その食物は昆虫、果実、そしてたぶん植物の滲出液である。

 これら3つの科の仲間の社会構成と交尾行動の様式はいちじるしく多様性にとむが、その種の体の大きさ、食物、生息環境の特徴から、ある程度予測できる。体の大きい木の葉食性のリングテイルとフクロムササビは主として単独生活をする。日中は樹洞または植物の茂みの中で、ひとりで、あるいはときにはつがいで眠る。そして、夜に姿を現して最高3haに及ぶ行動圏内の木の葉を食べ歩く。ふつうオスの行動圏は排他的であるが、12頭のメスの行動圏と部分的に重なることもある。オスが排他的な行動圏をもつこと、およびメスの行動圏がオスのそれと重なっていることは、オスのコドモが多く死亡すること、したがって性比はメスのほうが高いことと関係している。

 集合する傾向は体の大きさが小さくなるにつれて増大する。オーストラリア東部のハイイロリングテイルは最高3頭、オオフクロモモンガは5頭、フクロモモンガは12頭、チビフクロモモンガは25頭の群れをつくる。たいていの群れは夫婦とそのコドモたちからなる。しかし、フクロモモンガ科は4頭内外の関係のないオス・メスのオトナ(フクロモモンガ)、1頭のオスと1頭から数頭のメス(オオフクロモモンガ)、1頭のメスと最高3頭のオス(フクロモモンガダマシ)からなる真の混成群をつくることもある。群れて巣をつくるおもな理由は、冬に群れ集うことでエネルギーを節減できるからと考えられている。フクロモモンガの大きな営巣集団は、夏には小さな群れに分かれる。フクロムササビ属では、冬にメスが集まることは、優位のオスに最高3頭ものメスとの接触を独占めさせることになり、ハーレム防衛型の配偶形態が主流となる。

 ごく近縁のフクロモモンガダマシでは、まったく異なった配偶形態がみられる。それぞれのメスは樹洞の中に大きな巣を占有し、巣の周囲1〜1.5haのなわばりを他のメスから積極的に守る。厳密な一夫一妻制で、パートナーのオスはメスのなわばり防衛を手伝う。余ったオトナのオスは、繁殖つがいのつくる家族群の中で許容されることもあるが、オトナのメスは許容されない。そのためメスの死亡率が高まり、性比はオスにかたよる。このようなパターンは、十分な保温性をもつ巣をかまえることでメスが冬に群がる必要をなくすこと、食物源を容易に防衛できてなわばり防衛にさくエネルギーに十分見あうだけの余分のエネルギーが得られる。密生した生産性の高い生息環境を占めることと関係していると思われる。

 交尾相手を求めての競合(性淘汰)時にはたらく淘汰圧は、フクロムササビ属では、社会的な群れに属する他個体へのにおいづけに使われる臭腺の発達をもたらした。もっとも原始的でただ1つの一夫一妻制のメンバー、フクロモモンガタマシは臭腺の発達がもっとも劣り、パートナー間のにおいづけは、そのすぐそばに肛門腺がある尾のつけねへ、たがいに唾液をつけあうことによって行われる。反対に、乱婚制のフクロモモンガのオスは、前額腺(ぜんがくせん)、胸腺(きょうせん)、および肛門腺をもつ。オスはメスの胸部ににおいをつけるために自分の前額腺を使い、かわりに、メスは優位のオスの胸腺をこすってオスのにおいを自分の頭につける。オオフクロモモンガのオスも似たような腺をもつ。しかし、におい移しは、メスの肛門腺に自分の頭部の腺をこすりつけることで行う。逆に、メスは自分の頭を優位のオスの肛門腺にこすりつける。おそらくこのような行動は、各個体の社会的地位、性別、グループの一員であること、および繁殖状態を知らせることによって、群れの結合力を強めるものである。

 

滑空しているフクロムササビ
葉を食べているハイイロリングテイル(左)

昆虫を食べているフクロシマリス(右)

昆虫を食べている雑食性のニセフクロモモンガ
樹皮に噛みついてユーカリの樹液を食べているオオフクロモモンガ
主に花蜜と花粉を食べるブーラミス
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